PBL授業では、教員が講義などをせず、みなさんが取り組むべき事例問題を示します。事例問題を示されたら、みなさんがまず考えて決めるべきことは、自分たちが解決すべき問題は何か、何を学習すれば問題が解決できるかです。言い換えれば、みなさんの学習目標を決めることです。
|
問題に取り組む過程
問題が示されてから、学習内容を決めるまでの標準的な過程は、次のように示すことができます。通常は、30分~1回分(60分または90分)の授業の時間を掛けて、この学習に取り組みます。この手順を参考にして、自分たちが学習すべき項目を列挙して下さい。
1.事例の理解 | ここではあまり時間をかけず、示された事例・事象の中でわからない言葉があるか否かなど、事例そのものを全員が理解できたかを確認する。 |
2.問題の理解 | 解決すべき問題は何かを明らかにする。添付された資料や教科書が参考になることがある。 |
3.検討 | この段階に最も時間をかける。メンバー全員で既に知っている・答えられることを出し合う。お互いに既に知っていることを明確な言葉で説明しあうことを心がけることで、理解度を確認する。ただし、明確に説明できないからといって発言を控えてはいけない。どんな簡単なことでも、思ったことはすべて言うようにする。 |
4.知識の整理 | 前の段階で出された多くの知識をまとめ上げる。今の段階で答えられるものには答え、答えられないものを特定する。 |
5.学習目標の設定 | 全員が学習しなければならない項目をリストアップする。数日の間に調べて学習できるよう具体化しておかなければならない。 |
学習項目を分担する
メンバーが学習項目をバラバラに学習し、それをつなぎ合わせるだけでは、グループで学習する意味がほとんどありません。かえって、必要な学習内容が身につかない場合もあります。学習項目は、メンバー全員が学習することが原則です。(PBL授業では基本的に、全員が協力して学習しなければ問題解決に至らないよう、問題が設計されているはずです。)
しかし、分担して学習すること有益な場合もあります。メンバーで学習項目を分担する場合は、次のような点を考慮して分担を決めましょう。
|
学習資源を決める
学習すべき項目を決めたら、何を使えばそれらが学べるかを考えましょう。学習資源には、教科書、モノグラフ、記事、研究論文、インターネット上の資料、地域の専門家、専門職の社会人などが含まれます。それぞれの学習資源は、異なった目的で使うことになるでしょう。教科書で学習内容の概要を理解し、インターネットを使って最新の議論や情報を収集した上で、専門文献にあたって問題解決に必要な知識を得ます。
ただし、この時点では具体的な学習資源を特定できず、自己学習の過程で明確になる場合も多くあります。困難と思う場合は、大まかな方向を決めるだけでも構いません。
検討内容を記録に残す
グループでの議論は、必ずその内容を記録するようにしましょう。教員が記録用の用紙を配布してくれる場合もあります。議論をする際は、メンバーの一人を議論の記録係として決めておくとよいでしょう。この記録係は、事例問題に何度か取り組む間に分担し、全員が一度は経験するようにしましょう。
出された意見は全て記録し、全員でその内容を確認しながら議論を進めます。記録は、可能であれば「○○(発言者の名前)」「△△(発言者1・発言者2)」というように、誰の意見かも記録できると見直す際に便利です。
問題を提示されたら、(1)現在の知識で答えられることは何か、(2)自分たちが分からないことは何か、学習すべきことは何か、(3)次回のグループ学習までの学習計画を明らかにします。議論を通してこれらの活動を行うために、下に示すような枠組みで議論を記録し、自分たちの学習課題を明らかにしましょう(必要であれば、全員が学習すべき項目、分担して学習すべき項目の区別も明記する)。
グループ学習用の議論記録シートの例
例1(看護教育の授業の例)
着目した事実
|
仮説(解答案)
|
仮説を明らかにするために調べる情報
|
学習項目
|
例2(海外の大学の例)
Ideas(仮説)
|
Facts(事実・問題)
|
Learning Issues(学習項目) |
Action Plan(学習の行動計画)
|
||
例3(技術者倫理の授業の例)
記述内容(簡潔に箇条書きで要約)
|
自分の意見
|
|
まえがき | ||
工学の知識の特徴 | ||
ものづくりの過程での特徴 |
事実(簡潔に要約)
|
仮説・推論
|
|
資料の整理 | ||
技術的項目(分担)
|
倫理的項目(分担)
|
|
学習項目 |
事例問題の提示方法について
教員は、さまざまな方法で事例問題を提示します。具体的には、文章を読ませたり、画像を見せたり、映像を見せたりすることで提示されます。ここではその一例を示します。
交通局ジョン・ヘンリー警部の一日:パート1 1989年9月の第4金曜日、13時20分、地元警察に州道とメインストリートの交差点で怪我人が出る自動車事故が発生したと緊急通報が入った。ジョン・ヘンリー警部は電話を受けてから10分で現場に着き、交差点で2台の車が衝突しているのを見つけた。1台の車には意識不明の運転手が、もう1台の車には、負傷した運転手ともうひとりの乗客がいた。救急車が病院にけが人を運んだ後、ヘンリー警部はこの事故でどちら(もしくは両方)の運転手に責任があったのか検証し判断することにした。この事故での負傷の激しさから、死者がでてもおかしくない状況であり、ヘンリー警部の捜査は非常に重要である。
|
交通局ジョン・ヘンリー警部の一日:パート2 事故の状況の描写は図のとおりである。メインストリートは大きな公道で、制限速度は時速約72km。州道も同じく時速約72kmの制限速度だが、こちらはどちらにも「止まれ」の交通標識がある。車2は、総重量2630kgで、電柱の横で止まる前に、約7.315メートルスリップしている。車1は、総重量934kgで、衝突後のスリップ痕はなく、角にある民家わきの路肩に止まっている。車の衝突部分を見ると、車が直角に衝突し、車2の右フロントのバンパーと、車1の左フロントのバンパーがあたったということが明らかである。衝突後、2台の車は同方向に流れていった。ヘンリー警部は、天候は晴れ、気温は18.5℃で路面は乾燥していたことを記録した。 ジョン・ヘンリー警部が、詳細な分析に着手する直前、この事故で意識不明であった運転手が病院で死亡したとの報告があった。 ・ これまでの事実に基づくと、どちらの車の運転手が死亡したと推測できるか。根拠とともに示しなさい。
ヘンリー警部は、車1の運転手がスピードを出しすぎていたのか、車2が「止まれ」の標識を無視したのかの判断を迫られていた。ヘンリー警部が、この重要な問いに答えるための手順を示しなさい。これは、法廷での証拠に用いるため、しっかりした論拠に基づいている必要があります。
ヘンリー警部が路面摩擦係数測定機を用いて、タイヤと路面の摩擦係数計測した結果、0.60と測定された。ただし、車1については移動範囲が車道と芝生上にまたがり、タイヤと路面の摩擦係数の測定が不可能であった。
|
交通局ジョン・ヘンリー警部の一日:パート3 これまでの議論をもとに、2台の車の衝突前の速度と、車1の車道上、芝生上の摩擦係数を推計しなさい。全ての回答は、根拠もあわせて示すこと。
|
交通局ジョン・ヘンリー警部の一日:パート4 ヘンリー警部が、衝突直前に両車両がつけたスリップ痕を測定したところ、車1のスリップ痕は6.09m、車2では2.134mであった。
|